まず、「査定額」「売出価格」「成約価格」は別の数字です
不動産売却では、この3つの価格が混同されがちです。
| 査定額 | 不動産会社が取引事例や物件条件、市場性などから算出・提案する価格 |
|---|---|
| 売出価格 | 実際に市場へ出す価格。最終的には売主が決める |
| 成約価格 | 買主との交渉を経て、実際の売買契約で決まった価格 |
つまり、5,200万円という査定額が出ても、5,200万円で売れることが保証されたわけではありません。
公益財団法人不動産流通推進センターの価格査定マニュアルでも、戸建住宅では原価法、マンション・住宅地では事例比較法を採用するなど、一定の根拠に基づいて査定価格を算出する仕組みが示されています。
「なぜその価格なのか」を説明するための数字です。
実は、不動産会社は査定価格の「根拠」を示す必要があります
これは単なる営業マナーの話ではありません。
宅地建物取引業者が媒介価額について意見を述べる場合、その根拠を明らかにすることが求められています。国土交通省の解釈・運用でも、価格査定マニュアルや同種の取引事例など、合理的な説明がつく根拠が示されています。
ですから売主側も、査定書を受け取ったときに遠慮する必要はありません。
「なぜ5,200万円なんですか?」
この一言を聞いていいのです。むしろ、ここからが査定の本番だと思います。
では、なぜ会社によって400万円も違うのか?
不動産は株式のように、同じものが同時に大量に取引される商品ではありません。同じマンションでも階数・向き・室内状態が違います。戸建てなら土地形状、接道、建物状態、日当たりなど、さらに個別性が強くなります。
どの成約事例を比較対象にするか。現在販売中の競合をどう見るか。リフォームや眺望などをどう評価するか。市況を強めに見るか慎重に見るか。
こうした判断によって、ある程度の査定差が生まれること自体は不思議ではありません。
問題は、「差があること」ではなく「その差を説明できるか」です。
そして、もう一つ。不動産会社にも「売却を任せてもらいたい」という事情があります
ここは不動産会社側からすると、少し書きにくい話です。
売却査定を依頼された会社にとって、その後に売主と媒介契約を結べなければ、原則として仲介による売上にはつながりません。
つまり複数社による査定は、売主から見れば比較検討ですが、不動産会社から見れば「売却を任せてもらうための競争」でもあります。
そこで起こり得るのが、売主の期待に近い高めの価格を提示することです。
もちろん、高い査定を出した会社がすべて「媒介契約を取りたいだけ」という意味ではありません。本当に高く評価できる材料を持っている場合もあります。
ただし、
とは限りません。
5,200万円で売り出して、結局4,700万円になることもある
例えば周辺相場から見て4,800万円前後が一つの目安となる物件を、5,200万円で売り出したとします。
最初の数週間、問い合わせが少ない。内見も入らない。
すると「まず5,080万円にしましょう」「反響が弱いので4,980万円に」「もう少し下げましょう」と価格改定が続くことがあります。
最終的に4,700万円で成約したとしたら、最初の5,200万円という査定額だけを比較しても意味がありません。
もちろん、最初から安く売り出せばよいという話でもありません。市場の反応を見ながら少し高めから挑戦する販売戦略もあります。
大切なのは、高い価格を提示するなら「高く出す理由」と「売れなかった場合の次の手」までセットになっているかです。
高すぎる売出価格には、見えにくいコストがあります
売主にとって価格を高く設定することは、一見するとノーリスクに思えます。「売れなければ下げればいい」と考えることもできます。
しかし販売期間の最初は、その物件を初めて見る購入検討者が最も多い時期でもあります。
そこで相場から大きく離れた価格に見えると、「いい物件だけど高い」と候補から外されることがあります。そして後から値下げしても、一度候補から外した人が必ず戻ってくるとは限りません。
また、長期間掲載され、何度も価格変更されている物件を見て、購入者側が「まだ売れていないのには理由があるのでは?」と考えることもあります。
価格設定は、単に数字を高く置けばよいものではないのです。
逆に、「高い査定」が正しいこともあります
ここまで読むと「高い査定を出す会社は信用しない方がいい」と感じるかもしれません。
それも違います。
例えば同じマンションで直近に高値成約があった。競合物件が極端に少ない。角部屋・最上階・眺望など希少性が高い。戸建てなら土地形状や接道条件が良く、周辺事例より評価できる。
こうした理由から、他社より高い査定に合理性があることは十分考えられます。
だから見るべきなのは査定額の順位ではありません。
その会社が「高い理由」を具体的に説明できるか。
ここです。
査定書をもらったら、この3つを聞いてみてください
01 この査定額の根拠になった成約事例はどれですか?
販売中の価格だけではなく、実際に成約した事例をどう見ているか。
02 この価格で売り出した場合、どのくらいの期間を想定していますか?
「高く売れます」だけではなく、販売期間まで含めた説明があるか。
03 反響が弱かった場合、いつ・どのように価格を見直しますか?
最初の数字ではなく、その後の販売戦略まで考えられているか。
この3つを聞くだけでも、査定額が単なる営業上の数字なのか、販売戦略に基づいた数字なのかが見えやすくなります。
もう一つ見るなら、「自社の話」ばかりしていないか
査定の場では、「当社にはお客様がたくさんいます」「広告力があります」「このエリアに強いです」といった会社説明も出てきます。
もちろん、それも判断材料です。
ただ、売主が本当に知りたいのは会社の自慢ではなく、「私の不動産を、なぜこの価格で、どう売るのか」ではないでしょうか。
良い査定説明は、会社の話より物件の話が多くなるはずです。
査定額を競わせすぎると、判断を誤ることもあります
一括査定などで複数社の数字を比較すること自体は、相場観を知るうえで役立ちます。
ただ、「一番高い数字を出した会社が勝ち」という選び方を売主側がすると、不動産会社側にも高い数字を提示するインセンティブが生まれます。
すると、本来比較したかったはずの「査定の精度」より「数字の派手さ」を競う状態になりかねません。
3社の査定が4,700万円、4,800万円、5,300万円だったら、5,300万円をすぐ選ぶのではなく、むしろ「なぜ他社より500万円高いのか」を一番詳しく聞いてみてください。
結局、どの会社を選べばいい?
私たちなら、査定額そのものより次のような点を見ます。
成約事例を具体的に説明できる。物件の長所だけでなく弱点も話す。高く売れる可能性と、売れない場合のリスクの両方を説明する。売出価格の変更基準がある。そして、売主にとって耳の痛い話も必要ならきちんとする。
不動産会社を選ぶ場面では、つい「一番うれしいことを言ってくれた会社」を選びたくなります。
でも売却が始まってから本当に必要になるのは、うれしい数字を出す会社ではなく、市場の反応を見ながら一緒に判断できる会社です。
難しいのは、その価格で買ってくれる人を見つけることです。
査定額ではなく、「その先」を比べてください
不動産の売却査定で最も大きな数字を見る。それ自体は悪いことではありません。
ただ、その数字の横に、もう一つ質問を置いてみてください。
「なぜ、この価格で売れると思うのですか?」
その答えに、取引事例、物件の特徴、市場の状況、販売期間、価格戦略まで含まれているなら、その査定額には意味があります。
逆に、根拠が曖昧なまま「うちなら高く売れます」で終わるなら、数字がどれだけ魅力的でも一度立ち止まった方がいいかもしれません。
売却で比較するべきなのは、査定額の高さではなく、その価格を成約へ近づけるための説明と戦略です。
「いくらで売れそうか」だけでなく、
「なぜその価格なのか」まで。
売却価格について迷っている場合は、周辺の成約事例や物件条件を確認しながら整理することができます。
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