まず結論。「色あり=買ってはいけない」ではない

ハザードマップに色がついていると、それだけで候補から外したくなる方もいます。

しかし、同じ色がついている場所でも、想定される災害の種類、浸水の深さ、土地の高さ、建物の構造などによって実際の影響は異なります。

反対に、色がついていないから「災害リスクがない」と考えるのも適切ではありません。

国土交通省も、不動産取引で水害ハザードマップを説明する際、対象物件が浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと相手方が誤認しないよう配慮することを示しています。

つまり、見るべきなのは「色があるか」ではなく「その色が何を意味しているか」です。

「ハザードマップ」は一種類ではない

ハザードマップという言葉を一括りにしがちですが、災害の種類ごとに確認する情報は違います。

洪水河川が増水し、氾濫した場合に想定される浸水区域や浸水深などを確認します。
内水(雨水出水)短時間の大雨などで下水道や排水施設の処理能力を超え、街中に雨水があふれるリスクを確認します。
高潮台風や低気圧などによって海面が上昇した場合の浸水リスクを確認します。
土砂災害崖崩れ、土石流、地滑りなどについて、警戒区域・特別警戒区域などを確認します。

海や大きな川が近くにないからといって、それだけで安心とは限りません。都市部では、河川氾濫より内水の方が気になる場所もあります。

洪水と内水は何が違う?

洪水は、河川の水位が上昇し、川から水があふれたり、堤防が決壊したりすることで発生する水害です。

一方、内水は川があふれていなくても起こります。

短時間に大量の雨が降り、下水道や側溝などで処理しきれなくなった雨水が道路や宅地にたまる現象です。

「川から離れているから水害は大丈夫」とは言い切れない理由の一つが、ここにあります。

色を見る前に「想定浸水深」を見る

ハザードマップを見ると、最初に目に入るのは色です。しかし、不動産購入でより重要なのは、そこに示されている想定浸水深です。

同じ浸水想定区域でも、0.5m未満なのか、0.5~3mなのか、3m以上なのかでは意味が変わります。

たとえば戸建て住宅なら、浸水が想定される高さと、玄関・床・設備・駐車場などの位置を重ねて考える必要があります。

「浸水○m」という数字を、地図の数字のまま終わらせない。
その高さまで水が来たら、この家のどこまで影響するのか。そこまで想像して初めて、ハザード情報が住宅選びの材料になります。

0.5m未満の区域は、どう考えればいい?

想定浸水深が0.5m未満であれば、3mや5mが想定されている区域とは、当然ながらリスクの程度は同じではありません。

だからこそ大切なのは、数字だけで必要以上に不安になるのではなく、その50cmが実際の建物ではどこまで届くのかを確認することです。

道路より敷地や玄関が高いのか、基礎の高さはどうか、駐車場や設備が低い位置にないか。こうした条件によって影響の受け方は変わります。

ハザードマップは「0.5mでも危険」と決めつけるためではなく、現地の高さや建物のつくりをもう一段確認するきっかけとして使うのが実用的です。

戸建てなら「道路と敷地の高さ」まで見る

戸建てを現地で見るときは、建物の内外装だけでなく、周囲との高低差を見てください。

道路より敷地が低くなっていないか。玄関は道路面より高いか。駐車場が掘り込まれていないか。周囲の道路がその物件に向かって下っていないか。

同じハザード区域の中でも、数十センチ程度の高低差によって水の集まり方が変わることがあります。

ハザードマップと現地確認は、どちらか一方ではなくセットです。

マンションは「住戸の階数」と「共用設備」の両方を見る

マンションでは、住戸の階数によって直接的な浸水リスクは大きく変わります。高層階であれば、住戸そのものへの浸水を避けやすいことは一つの安心材料です。

そのうえで、地下駐車場、エレベーター、受変電設備、給排水設備などがどこにあるかも確認しておくと、より具体的に建物全体の水害リスクを把握できます。

「自分の部屋」と「建物全体」の両方を見ることで、マンションならではの備え方が見えてきます。

道路の向かい側で色が違うこともある

ハザードマップを拡大すると、道路を挟んで色が変わっていたり、同じ町内でも浸水深の想定が異なっていたりすることがあります。

土地は平らに見えても、実際には細かな高低差があります。水は低い方へ流れるため、こうした地形の違いが想定に反映される場合があります。

物件だけをピンポイントで見るのではなく、周囲を少し広く見て、水がどちらへ流れそうなのかも確認すると理解しやすくなります。

色がない場所は、どう考える?

色がついていない場所は、物件選びでは一つのプラス材料になり得ます。

ただし、ハザードマップの白い部分を「将来も水害が絶対に起きない場所」とまで読み替えないことも大切です。

ハザードマップは一定の前提条件や公表データに基づいて作られています。また、災害情報の整備状況は地域や災害の種類によって異なります。

国土交通省も、不動産取引時の説明について、浸水想定区域に該当しないことをもって、水害リスクがないと誤認させないよう配慮を求めています。

白い場所も含めて、地形や周辺状況と合わせて見る。それくらいの距離感がちょうどよいと思います。

過去に本当に浸水したかも確認する

ハザードマップが示しているのは、主として将来想定される災害リスクです。

それとは別に、過去にその地域で実際に浸水被害が発生したかを見る方法もあります。

東京都では「水害リスク情報システム」で、過去の水害記録や浸水実績などを確認できます。

ただし、過去に浸水実績がないから今後も浸水しない、という意味ではありません。反対に、過去に水害があった場所でも、その後に河川改修や下水道整備などが行われていることがあります。

将来の想定と過去の実績は、別々の資料として両方見るのがポイントです。

昔から住宅地であることも、判断材料の一つ

現地で「この辺は昔から住宅地ですよ」「この家も何十年も建っています」と聞くことがあります。

長く住宅地として使われてきたことや、地域の方から聞く過去の状況も、購入を考えるうえで参考になる情報です。

一方で、その後に河川改修や下水道整備が進んでいることもあれば、近年の豪雨のように過去とは降り方が変わっている面もあります。

ハザード情報、過去の履歴、現在のインフラ、現地の地形を合わせて見ることで、その場所をより実態に近い形で判断できます。

土砂災害は「川から遠いから安心」とは別の話

高台や丘陵地では、水害とは別に土砂災害を確認する必要があります。

崖や斜面の近くでは、土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域に該当していないかを確認します。

眺望の良い高台や緑の多い住宅地には魅力がありますが、その魅力と災害リスクは別々に考える必要があります。

その地域では「何を見るべきなのか」から考える。ハザードマップはそのための入口です。

不動産の重要事項説明では何を説明される?

不動産の売買・賃貸では、水防法に基づいて市町村が作成した水害ハザードマップについて、宅地建物取引業者が重要事項説明の際に対象物件のおおむねの位置を示すことになっています。

対象となる水害は、洪水・内水(雨水出水)・高潮です。

また、使用するものは市町村が配布・公表している入手可能な最新のハザードマップとされ、マップ上の避難所についても位置を示すことが望ましいとされています。

ここで注意したいのは、重要事項説明は「そのマップ上で物件がどこにあるか」を確認する制度であって、不動産会社が将来の被害を予測・保証する制度ではないということです。

ハザードマップは契約の日に初めて見るものではない

重要事項説明は、通常、購入する物件がほぼ決まった後に行われます。

その段階で初めて、「え、この物件は浸水想定区域だったんですか?」となるのは、あまり良い順番ではありません。

駅までの距離、価格、間取り、学区、買い物環境を見るのと同じように、ハザード情報も物件を比較している段階で確認する方がよいでしょう。

大きなリスクが見つかったとしても、その時点なら別の物件と比較したり、建物の条件を確認したり、保険を検討したりする余地があります。

「重ねるハザードマップ」と自治体のマップは使い分ける

国土地理院・国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」には、複数の災害情報を地図上に重ねて確認できる「重ねるハザードマップ」と、市区町村が公開しているハザードマップを探せる「わがまちハザードマップ」があります。

物件探しの初期段階では、広いエリアを比較しやすい「重ねるハザードマップ」が便利です。

一方、実際に購入候補が絞られたら、自治体が公開している最新のハザードマップも確認することをおすすめします。

避難所より「そこまで行けるか」を見る

地図に避難場所が載っていると、それだけで安心してしまいがちです。

しかし大雨時に大切なのは、避難所の存在だけではありません。

そこへ行く途中に川やアンダーパスはないか。冠水しやすい道路を通らないか。高齢者や小さな子どもがいる家庭で実際に移動できる距離か。

家から避難先までの「線」で見ることも重要です。

火災保険の「水災」も住宅選びと一緒に考える

水害リスクを確認したら、火災保険の水災補償も一緒に検討しておきたいところです。

「火災保険」という名前でも、契約内容によって水害に関する補償を付けることができます。ただし補償の対象や支払条件は商品・契約内容によって異なります。

ハザードマップでリスクを知り、建物で対策を考え、保険でどこまで備えるのかを確認する。

物件と保険を別々に考えないことも、住宅購入時のリスク管理です。

では、色がついていたら買わない方がいい?

ここまで読んでも、最後に知りたいのはこの答えだと思います。

私たちは、ハザードマップに色がついているという理由だけで「この物件は買わない方がいい」とは考えません。

都市部では、利便性の高い住宅地にも浸水想定区域はあります。

駅距離、価格、建物、周辺環境、通勤、学校。そして災害リスク。住宅購入はそれらを総合して判断するものです。

ただし、リスクを知らずに買うことと、知ったうえで買うことはまったく違います。

想定浸水深はどの程度か。戸建てかマンションか。敷地は周囲より高いか。過去の浸水履歴はあるか。避難経路はどうか。保険でどう備えるか。

そこまで確認したうえで、「この条件なら自分たちは納得して選べる」と判断できることが大切です。

ハザードマップは「候補を減らす地図」ではない

ハザードマップを見る人が増えたこと自体は、とても良いことだと思います。

ただ、目的は色のついた物件を機械的に候補から外すことではありません。

同じエリアでも、土地の高さや建物の構造、階数、過去の履歴、避難のしやすさによって見え方は変わります。

ハザードマップは、その物件の弱点だけでなく「どこを確認すれば安心材料が増えるのか」を教えてくれる地図でもあります。

確認したうえで納得できるなら、その物件を選ぶ。気になる点が大きければ別の物件と比べる。

選択肢を狭めるためではなく、納得して選ぶために使う。それが住宅購入でのハザードマップの使い方だと思います。

BUY / FEATURE 27

色を見るのではなく、その家で何が起こるかを見る。

ハザードマップに色がある。それだけで良い物件を候補から外す必要はありません。

色がない場所は安心材料の一つですが、周囲の地形なども合わせて確認すると、より納得して選べます。

洪水、内水、土砂災害。浸水深、土地の高さ、過去の浸水履歴、建物の構造、避難経路。

一つずつ確認して、そのリスクを理解したうえで、その家を選ぶのかを考える。

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参考情報

この記事は2026年9月時点で国土交通省・国土地理院・東京都が公表している水害ハザードマップ、不動産取引時の説明制度、過去の水害記録等をもとに、不動産売買の実務上の視点を加えて構成しています。ハザードマップや指定区域は更新されることがあるため、実際の購入時には自治体等が公開する最新情報をご確認ください。